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「3ヶ月以上下痢が続いている」「便秘と下痢の症状が交互にある」など、長引く腸の不調は、『過敏性腸症候群』かもしれません。
原因ははっきりしていませんが、ストレスと関係があるといわれています。
過敏性腸症候群は、放置すると悪化して生活に支障をきたすこともあるため、生活習慣の見直しや薬物療法などの適切な治療を行い、症状を改善することが大切です。
この記事では、過敏性腸症候群の原因や治療について紹介します。腹痛や便秘、下痢の症状にお困りの方、また症状が起こるのではないかと不安を感じている方は、ぜひご覧ください。
ストレスが原因?過敏性腸症候群とは
過敏性腸症候群とは、腹痛や下痢、便秘の症状を長期間繰り返す病気です。
つらい症状があるにもかかわらず、検査を受けても炎症や潰瘍などの異常が見つかりません。
しかし、過敏性腸症候群には、ストレスなどのメンタル面の影響があると考えられるケースも多いといわれていることをご存じですか? ここでは、過敏性腸症候群の原因や症状、検査や診断について詳しく紹介します。
過敏性腸症候群の原因
過敏性腸症候群(IBS:Irritable bowel syndrome)の原因は、未だはっきりと分かっていませんが、ストレスや過度の緊張が関係していると考えられています。
何らかのストレスによって脳下垂体からストレスホルモンが分泌されると、それが刺激となって腸の働きが悪くなり、症状が現れるといわれています。
ただし、過敏性腸症候群の原因として考えられるのは、ストレスだけではありません。
大腸や小腸などの運動異常や知覚過敏、生活習慣の乱れによって発症することもあります。
また、大腸がんや潰瘍性大腸炎、クローン病などの症状の一部として現れるケースもあるため、自己判断せずきちんと大腸カメラで腸に異常がないことを確認することが大切です。
過敏性腸症候群の症状
過敏性腸症候群の主な症状は、下痢や便秘です。腹痛を伴うことも多く、日常生活に支障をきたすことも少なくありませんが、排便をすると痛みが一時的に落ち着くのが特徴です。
主となる症状によって、以下のように『下痢型』と『便秘型』、『混合型』、『分類不能型』に分けられます。
【下痢型】 突然便意に襲われ、激しい腹痛を伴った水っぽい下痢が1日3回以上起こるタイプ。若い男性に多いのが特徴。特に緊張する場面で症状が現れることが多い。
【便秘型】 腸管が痙攣することで便秘になるタイプで、女性に多い。排便時の腹痛や便が出にくい、コロコロとした水分のない便が出るなどの症状が現れる。
【混合型】 便秘と下痢を交互に繰り返すタイプ。ストレスを感じると症状が現れやすいのが特徴。
上記の3タイプに当てはまらない分類不能型は、お腹が張ったりお腹が鳴ったり、おならが多くなったりなどの症状が現れることも多く、それらの症状がある場合は『ガス型』と呼ばれます。
過敏性腸症候群の検査・診断
過敏性腸症候群の診断は、Rome 基準(過敏性腸症候群の国際的な診断基準)にのっとって行われます。
現在はROMAⅣ基準まで作成されております。
2006年策定のROMAⅢがよく使用されておりますが、2016年にROMAⅣに更新されました。
診断基準: 腹痛や腹部不快感が過去3か月間、1か月に少なくとも3日以上存在し、そのうち以下の2つ以上が伴う:
- 排便によって症状が改善する
- 排便頻度の変化
- 便形状(性状)の変化
特徴:
症状の中心は「腹部不快感」と「腹痛」であり、「腹部不快感」も腹痛と同等に扱われていました。
症状の頻度として「月に3日以上」という比較的緩やかな基準が採用されていました。
診断基準: 過去3か月間の少なくとも1週1回以上の頻度で繰り返される腹痛があり、その痛みが以下の2つ以上を伴う:
- 排便により症状が改善する
- 排便頻度の変化
- 便形状(性状)の変化
特徴:
診断により明確な基準を持たせ、より正確な評価が可能となるように変更されました。
「腹痛」のみが主要な診断基準として強調され、「腹部不快感」は除外されました。これは、腹部不快感の主観的な評価が診断の正確性に影響する可能性があるためです。
症状の頻度がより厳格になり、1週間に1回以上の頻度で腹痛が発生していることが必要になりました。
- 腹部不快感の扱い: ROMA IIIでは「腹部不快感」も症状として含まれていましたが、ROMA IVでは「腹痛」に焦点が当てられ、「腹部不快感」は診断基準から除外されました。
- 症状の頻度: ROMA IIIでは「1か月に少なくとも3日以上」とされていたものが、ROMA IVでは「週に1回以上」に変更され、頻度基準が厳しくなりました。
- 診断の明確化: ROMA IVでは診断基準がより具体的になり、診断の正確性を向上させるための変更が加えられています。
ただ3ヶ月以上の症状を呈する前に受診をされるケースもありますので、診断には注意を要します。
しかし大腸がんや潰瘍性大腸炎、クローン病など、器質的疾患の可能性を排除するための検査が必要です。
問診や便潜血検査、血液検査、腹部エコー検査、大腸カメラなどで原因となる病気はないか一つひとつ確認していきます。
特に体重減少やその他の身体的な異常がみられる場合や50歳以上、過去に自身や家族に大腸の既往歴がある場合などは、他の病気を確実に除外することが大切です。
過敏性腸症候群改善のために見直したい生活習慣
腸の状態は生活習慣による影響も受けやすいため、自分の生活習慣を振り返って改善していくことが重要です。
過敏性腸症候群の治療では、薬物療法や心理療法を行う前にまず生活習慣の改善を図り、改善されなかった場合に薬物療法や心理療法を行うことが推奨されています。
では、具体的にどのような生活習慣に注意すればよいのでしょうか。ここでは、過敏性腸症候群改善のために見直したい生活習慣を紹介します。
ストレス対策
ストレスが原因となることがある過敏性腸症候群を改善するためには、ストレスを解消する方法を見つけることが大切です。
例えば、ウォーキングなどの適度な運動はストレス解消に有効だといわれていますが、ストレスを解消する方法は人それぞれ異なるため、自分に合った方法を探してみてください。
ポイントは、ストレスを解消する目的で探さないことです。
自分がやってみたいこと、楽しいと感じることに挑戦し、気づいたときにはストレスが解消されていたというのが理想だといえるでしょう。
また自分がストレスのかかる場所から離れることも大事です。
自分にとって居心地の良い空間・時間を集めて増やしていくのが良いでしょう。
飲酒・喫煙
過敏性腸症候群の症状があるときは、消化器への負担が大きい飲酒や喫煙もできるだけ控えるようにしましょう。
たしなむ程度の飲酒(ビールであれば240ml、ワインであれば120ml)であればそれほど影響はないですが、それ以上になると症状が悪化する恐れもあります。
また、タバコに含まれるニコチンも症状を悪化させる恐れがあるため、控えることをおすすめします。
飲酒・喫煙は下痢の方向に働きかけます。
低FODMAP食
『低FODMAP(フォドマップ)食』とは、小腸で吸収されにくいとされる、以下の発酵性糖質を含む食品を控える食事療法のことです。
過敏性腸症候群の方は、FODMAPを含む食品を摂ると症状が悪化してしまうこともあるため、控えることが推奨されています。
Fermentable:発酵性
Oligosaccharides:オリゴ糖
Disaccharides:2糖類
Monosaccharides:単糖類
Polyols:ポリオール
上記の発酵性糖質を指す用語の頭文字を取り、間にANDをつけて『FODMAP』と呼ばれています。
FODMAPを多く含む『高FODMAP食』は、パンやパスタ、ラーメン、うどん、ピザなどの食べ物です。
意外かもしれませんが、一般的に腸内環境を整えるとされる納豆やヨーグルトなどの食品も、高FODMAP食に含まれます。
反対に、低FODMAP食と呼ばれるのは以下の食品です。
穀類:米・玄米・10割蕎麦・ビーフン・タコス・コーンスターチ・タピオカ・オートミール・ポップコーン・米粉類・フォーなど 野菜類:ナス・トマト・ブロッコリー・ニンジン・ピーマン・カボチャ・ジャガイモ・ほうれん草・キュウリ・レタスなど 乳製品:バター・マーガリン・アーモンドミルク・パルメザンチーズ・カマンベールチーズ・チェダーチーズ・ゴルゴンゾーラチーズなど
果物:パイナップル・オレンジ・レモン・ライム・メロン・イチゴ・ブドウ・ミカン・ブルーベリーなど
飲み物:緑茶・紅茶・コーヒー・レモネード・水
肉・魚:牛肉・豚肉・鶏肉などの肉類全般・卵・魚介類全般
これらの食品を普段の食事に取り入れることで、過敏性腸症候群の症状が軽減する可能性があります。
自律神経を整える
過敏性腸症候群は、自律神経失調症の症状のひとつだともいわれています。
ストレスによって自律神経が乱れると、腸の働きが悪くなって下痢などの症状が現れることがあります。
そのため、早寝早起きや睡眠の質の向上、食生活の改善などを行い、自律神経を整えるよう心がけることが大切です。
特に良質な睡眠は自律神経を安定させて腸の働きを正常に保つことにつながります。
夜はリラックスして過ごすよう心がけ、睡眠環境を整えて毎日7〜8時間の睡眠を取ることを目指しましょう。
寝つきがよくないと感じるのであれば、適度な運動を取り入れるのもおすすめです。
過敏性腸症候群の薬物治療
大腸カメラなどの検査を行って他の病気の可能性が除外され、過敏性腸症候群だと診断されたら、生活習慣の見直しを行い、必要に応じて症状の出方や強さに合わせた薬物療法を行います。
ここでは、過敏性腸症候群の薬物療法で使用する主な薬剤を紹介します。
セロトニン3受容体拮抗薬
『セロトニン3受容体拮抗薬』とは、下痢型の過敏性腸症候群の原因である腸内のセロトニン(ストレスがかかると増加するホルモン)の作用を抑制し、下痢や便意切迫感を改善する薬です。 さらに腹痛や腹部の不快感などの症状も改善する効果が期待できますが、副作用として便秘や便が硬くなる症状が現れる可能性があります。 セロトニン3受容体拮抗薬は、服用を開始してから比較的早期に効果が現れるのが特徴です。食事の影響を受けないため、朝1回服用したり朝夕2回に分けて服用したりなど、症状やライフスタイルに合わせて調整します。
下痢や便秘に効果のある薬
さまざまな種類のある過敏性腸症候群の薬ですが、患者さんの症状に合わせて、下痢や便秘に効果のある以下の薬を処方することもあります。
整腸剤:腸内環境を整えて下痢や便秘、腹部の不快感を改善する薬
高分子重合体:便に含まれる水分量を調整する薬
緩下剤:便の水分を増やして柔らかくしたり便を出しやすくしたりする薬
止瀉薬:下痢がひどいときに頓服で用いる薬 過敏性腸症候群には下痢型や便秘型、混合型などがあり、患者さん一人ひとり症状が異なります。
また、体質や生活リズムによっても適した薬が変わってくるため、治療を行いながら最適な薬を見つけていくのが一般的です。
体質改善の漢方薬
過敏性腸症候群の治療では、下痢や便秘などの症状や体質に合わせて、漢方薬を服用することもあります。
例えば、『桂枝加芍薬湯』はストレスによる胃腸機能低下を調整し、過敏性腸症候群による腹痛や下痢、便秘など、幅広い症状への効果が期待できる漢方薬です。
『桂枝』はシナモンのことで、イライラによる腹痛が起こったときにリラックスして症状を和らげる作用があり、『芍薬』には鎮痛鎮静や抗痙攣、血管の拡張、抗炎症、筋肉の緊張を緩めるなど、幅広い効果が期待できます。
過敏性腸症候群の心理療法
過敏性腸症候群は、ストレスや過度の緊張など、精神的な要因によって起こることも多い病気です。
症状を我慢したりそのまま放置したりしてしまうと悪化する可能性もあるため、医療機関を受診して適切な治療を受けることが大切です。
過敏性腸症候群の治療では、薬物療法が行われることも多いですが、それだけで改善できなかった場合やストレスが原因だと考えられる場合は、心理療法も併用されることがあります。
ここでは、過敏性腸症候群の心理療法について詳しく紹介します。
抗不安薬
過敏性腸症候群による気分の落ち込みや不安感が強い場合は、症状を悪化させる悪循環を断ち切るために、抗不安薬や抗うつ剤が処方されることがあります。
また、パニック障害の予期不安(特定の事象が起こる前に強い不安や恐れを感じること)や、広場恐怖(不調や不快感が強くなったときに逃げ出せない場所で強く不安や恐怖を感じること)に似た症状を伴う場合にも用いられることがあります。
抗不安剤は依存性を心配されることも多いですが、医師の指示に従って服用すれば、症状の改善に有用な薬です。
認知行動療法
心理療法のひとつである『認知行動療法』も、過敏性腸症候群で行われる治療です。
過敏性腸症候群は、性格的に真面目な方やストレスをためやすい方、ストレスによる痛みやつらさに気づかず我慢してしまう方がかかりやすいといわれています。
特に「またお腹が痛くなるのではないか」「トイレに間に合わず漏らしてしまったらどうしよう」など、悪い方向へ考えてしまう癖があることが多いです。
認知行動療法では、自分の考え方の癖を自分で客観的に把握して変えていくことで、症状の改善を図っていきます。
当院では認知行動療法は実施しておりませんのでご注意ください。
まとめ
過敏性腸症候群は、日本を含めた先進国に多い病気です。原因ははっきりと分かっていませんが、ストレスが関係しているといわれています。
腹痛や下痢、便秘などの症状が長期にわたって繰り返し起こるため、外出がおっくうになるなど、QOL(生活の質)が低下する要因になることもあるでしょう。
医療機関では、大腸カメラなどの必要な検査を行い、その他の病気でないことを確認したうえで過敏性腸症候群と診断します。
適切な治療を受ければ回復が期待できるため、気になる症状がある場合は早めに受診しましょう。
では、つらい過敏性腸症候群の症状を改善するために、西洋・東洋を混合した治療を行っています。
大腸カメラをはじめ、腹部エコーや血液検査などの検査を行い、薬物療法や食事療法、運動療法、心理療法などの中から患者様一人ひとりに合わせた治療をご提案いたしますので、繰り返す下痢や便秘にお悩みの方は、ぜひ当院へご相談ください。